出水太郎（吉松満秀）さんからの手紙
※この手紙は，『原告番号十二番』の著者・薬害エイズの被害者である吉松満秀さんが，生前，エイズを学ぶ子どもたち宛に書かれた手紙です。鹿児島の小学校教師・藏満逸司さんを通して，全国の子どもたちが吉松さんからたくさんのことを学ばせていただきました。そして，これからも，学んで行かなくてはなりません…。そのために，ここに載せさせていただきます。
皆さん，こんにちは！初めてお便りします。
始めに自己紹介しておきます。私は，出水太郎といい，エイズ患者です。40才で妻と４才になる女の子と３人で暮らしています。去年の秋から病状が悪化して，県内のある総合病院で治療のために入院しています。皆さんにエイズについてのメッセージをお届けすることを幸せに思います。なお，本名を伏せてお便りすることをお許しください。
皆さんは今日，エイズについて共に考え，そして理解しようということは，とても大切なことです。先生の話は多少むずかしいところがあるかもしれませんが，耳をすましてしっかり聞いてほしいと思います。こうして勉強したことは，いつか必ず役に立ちエイズを恐れず，身を守れるでしょう。
さて，私がなぜエイズになってしまったのかを話します。私は生まれてすぐから血友病で苦しんでいました。君たちがまだ生まれる前の昭和五十四年ごろ，この病気の治療薬が開発されました。これより以前もあったのですが研究が進みより純度の高い薬ができたのです。ところがこの薬は血液製剤といって人の血液を精製して造られ，原料の血漿はほとんど全部をアメリカから輸入していて，この中にエイズウイルスが混じっていたのです。全国に５０００人くらいの血友病患者がいて２０００人ほどエイズに感染したといわれています。
鹿児島においては，２０人も感染して，一昨年は青年二人があいついで亡くなりました。現在，中学生で通学している子も知っています。学校や友達が彼の病気を知ってしまったら，学校へ行けなくなる恐れがあります。いじめの対象にもされます。自分たちの身の回りに感染者がいてもパニックにならないためにも，しっかり学んでほしいと思います。
血友病について少し説明します。この病気は，突然変異でもおきますが，大部分は遺伝によって生まれます。君たちがお父さんやお母さんに顔立ちが似ているように，体の中もそっくりになってしまうのです。ケガをすると血が出ますが，それを止めようとして血小板や凝固因子という物質（蛋白質でできている）がすごく少ないのが血友病です。１−１３あって，８番目が欠けているのが血友病Ａ型，９番目がＢ型といっています。先ほど遺伝病だといいましたが，女性の血友病はいるにはいますが，ほとんど生まれません。男子１万人に１人生まれるといわれています。君たちの学年が進んでメンデルの法則などを習うときは，この病気のことを思い出してください。
次に，今日のテーマであるエイズについて話します。エイズウイルスが私の体に入ってから約１０年になります。そして，私の細胞をおいしそうに食べて仲間をふやしつづけています。これを増殖といいます。このウイルスは，血液魔中のＴ４という細胞が大好きなのです。君たちが風邪をひいてセキや鼻水がでて，熱が出たりしますがこの時，Ｔ４という細胞は風邪のウイルスをやっつけろと全身の細胞に命令を出します。すなわち司令官がやられてしまうのです。ウイルスはＴ４を食べつくしてしまい外部から進入してくる菌やウイルスをやっつけられずやがては死にいたります。
エイズにかかればいつかは発病して死んでしまう恐ろしい病気ではあるが，たとえ君たちの友達にエイズ患者がいたとしても，日常生活においては決して移らないのです。だから，その子をいじめたりしないで遊んでほしいのです。私は，子どもと風呂に入ったり遊んだり食事をしたりしているけど，女の子はエイズではありません。血を取って調べてもらいました。どうしたらエイズが移りやすいのかを先生と十分話し合ってみてください。
世界中の国々でエイズが広がり恐れられ，科学者は薬の開発研究に日夜取り組んでいますが，いまだ有効な薬はできていません。したがって，エイズにかからないことが唯一の薬なのです。しかし，人々は恐れるあまり私たちエイズ患者をイヤがっています。握手してもつばが飛んでも移らず，エイズ患者を刺した蚊からも移ることがないのに必要以上に心配しているのです。
何回も言いますが，エイズは日常生活においては決して移らず，エイズ患者とともに生活できるのです。この事だけは絶対に覚えていてほしいと思います。
今日学んだことを両親をはじめ友だちにも教えてやってください。エイズを正しく理解することは，人類が生きていくための栄養剤みたいなものだろう。エイズを知れば，ただの治りにくい病気であることに気づきます。エイズ患者は，おばけなんかではなく，皆と同じ人間なのです。差別や偏見の対象にされるのはナンセンスです。
人類は，エイズだけでなく治療ができない難病がたくさんあり，それぞれ患者は苦しんでいます。君たちのなかにも糖尿病やぜんそくを持っている子が一人ぐらいいるかもしれませんが，元気で学校へ通っていますね。
私は，血友病で中学１年までしか通学できませんでした。君たちは元気で学校に行けることを感謝しなければなりません。なぜなら戦争はたえずどこかの国で起こり，飢えでやせ細って死んでいく子どもたちをテレビで見ると悲しくなります。君たちが大人になったら，世界中の人々が健康で暮らせるように，いろいろな学問を身につけて国際社会に役に立つ人になってほしいと願っています。
二度ともどらない青春をスポーツや勉強に情熱を燃やし，友情を育て楽しく過ごしてほしい。異性を好きになるのもけっこうだけれど，好きだからといってキスしていいということにはならない。ただのキスだけではエイズには感染しないが，純真な交際こそが自分がエイズにならない方法であることもしっかり心に止めていてもらいたい。
限りない君たちの未来に病室より愛をこめて声援を送ります。苦しいときや悲しいとき，そして嬉しいときもちょっぴりでいいから，エイズと共に生きている私を思い出してくださいね。
これで，私からのメッセージを終わります。
むずかしい事があったかもしれませんが，先生に説明してもらってください。そして皆さん，私に先生を通じてお手紙をください。待っています。
早々
１９９３．６．１
エイズを勉強中の皆さんへ
出水太郎より