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小学４年・国語
方言と共通語の学習

種子島弁バージョン「ももたろう」
（1999年度実践）

依田昇文・箕田源二郎絵／講談社

　はーと昔のことやあ。
　あるところに，たいてえなかのよかじいとばあがおったとやあ。
　ある日なあ，じいはよっこらしょよっこらしょと，山へしばかりに出かけたとや。ばあはこれまたとんとんこらさとんこらさと川へせんたくに行ったとや。

　ばあがやあ，ざんぶりじゃぶじゃぶざんぶりじゃぶじゃぶ，せんたくをしとったらやあ，うえんほうからつんぷかかんぷか，つんぷかかんぷかふっとかももが流れてきたとや。
　ばあは，たいていうれしくなってやあ
「おいげんももなら，こっちへくいはず。よそんげんのももならあっちへいくはず。」
と歌っちょったらやあ，ももはつんぷかかんぷか，つんぷかかんぷかとひとりでにばあの足んとこに流れついたとや。

　ばあは，もうほくほくしてやあ，
「はよう帰って，じいと食べんばじぇー。」
とほいさかほいさかいそいでうちん帰ったとや。

　じいは，
「こりゃあ，なんちゅうももちゅう。」
と大喜びでやあ，さっそくわろうとしたらやあ，ももはぱくりっとこれまたひとりでにわれてやー，
「ほぎゃあ，ほぎゃあ。」
となっからむぞか，男ん子が生まれたてや。
　じいと，ばあは，おどろいちょったがそんりゃ喜んでやあ，ももから生まれたからやあ「ももたろう」っちゅー名前にしたとや。

　ももたろうはやあ，あわんおかゆをひとわん食うてはずくん，
ますん塩焼き二くし食べてはずくん，ずくん，
山いもじるをばやあ，三ばい食べてはずくん，ずくん，ずうくん，
とでっかくなってやー，たちまち立派なにさあになったとや。

　ももたろうは，ずうたいは，でかかったけどやあ，たいしたなまけもんじゃったとやあ。
　近所の若いんが
「たきぎとり行くろー。」
と言ったらやあ，
「ぞうりがなっから，行けんや。」
とごろりんとねころんどったてやー。
「ぞうり持って来たろー。」
と言ったらやあ
「しょいこがなっから行けんやあ。」
とまたごろりんとねころんだとやあ。
「しょいこもってきたろー。」
と言ったらやあ，
「かまがなっからどうしようもなかわ。」
と，またまたごろりんねころんだとや。
「かまを持ってきたろー。」
と言ったらやあ，
「ほわほわあ。」
とでっかかあくびをしてからやあ，
「しかたねぇなー。」
としぶしぶとや，山へ出かけたとや。

　山へ行ったももたろうはやあ，またまたなんにもせんじごろりんとねころんどったとやあ。
そいでなあ，夕方んなって日が暮れてきたらやあ，とつ然むくりっと起きあがって，でっかかまつのねっこにしょんべんひって土をやわあくしたとや。そいからまつん木をゆっさゆっさとゆさぶって，
「えいややっ」
とひっこぬいて，はっち木をかたにかつぐとほいさかどどどう，ほいさかどどどうとや，かみなりさまみてぇなおそろしか地ひびきたててよー，いっきにうちまでかけて帰ったとや。

　ももたろうが，
「ばあ，たきぎはどけーおくとー。」
と声をかけたけどやあ，返事がなか。
　ももたろうは気になってやあ，うちん中をそっとのぞいてみたとや。なんちゅうことや。うちん中にはだれもおらん。ももたろうは，びっくらこいて，
「ありゃばあよう，どーしたてーちゅー。」
とさけんどったらや，やねのてっぺんとまっておったカラスが言ったとや。
「えらいこったよ，ももたろう。鬼ヶ島のおにどもが村をあらしにやって来て，塩，米，あわをうばった上に若っかむすめんなんどーみんなさらっていったわさ。」

　それを聞いたももたろうはやあ，かっと目を見開いて，
「なんち，鬼ヶ島のおにめが。」
と声をあげてさけんだてやー。そいから，うでをくんですわりこんでやー，目をつむり考えたとや。
しばらくすると，今度は，ごろんとねころんでやー，考えたとや。あんまり考えこんどってや，ばあとじいが帰ってきたのもとんと気がつかんかったとや。
ばあが心配になって，
「ももたろう，いもかゆができたろー。」
と何度いってもや，ごろんとねころんだまま，何日も何日もむっつり考えこんどったとや。

ももたろうはやあ，ある日とつ然むくりと起き上がってやー，
「じい，ばあおいは今から，鬼ヶ島に行って鬼どもをこらしめてくいから。」
と大した大声をはりあげたとや。じいとばあはやあ，たまげてしまってなんとか止めようとしたばってんかももたろうはやあ，
「うんにゃ，行くって決めたらいくとじぇ。そんでばあ，ふっとかきびだんごをやあ，三つ作ってくれや。」
と言うもんやからやあ，とうとうあきらめて，
「そいじゃあやあ，あんじょいってこいや。みずだのへびだのさめにはきをつけーろー。」
といってやー，きびだんごをみっつ作ってももたろうを見送ったとや。

　ももたろうはやあ，小舟に乗ってやー，ぎっこらぎっこらおきにむかったとや。
「米あわさらった，おにどもめ，しおっこうばったおにどもめ。日本一のももたろうがきっとたいじしてみせるわい。ぎっこら，ぎっこら，ぎっこらしょ。」
　ももたろうはやあ，元気ー歌いながらやあすう〜いすう〜いとおきんむかっていったとや。

　ももたろうは，舟をば，こいだとや。ぎっこら，ぎっこら，ぎっこらしょ。ゆくがゆくが犬ヶ島に着いたらやあ，犬が言ったとや。
「ももたろうどん，ももたろうどん，今からどけーいくとや。」
「鬼ヶ島のおにたいじにいくとや。」
「おこしのもんはなんちゅーもんじゃ。」
「日本一のきびだんごやろー」
「一つくれーや。仲間になろう。」
「一つはだめじぇー。半分あぐいや。」
ももたろうと犬はやあ，きびだんごをば半分ずつ食べてやー，仲間になったてや。

　ももたろうと犬はや，いっしょに舟をこいだとや。ぎっこら，ぎっこら，ぎっこらしょ。ゆくがゆくがさるヶ島に着くとさるが言ったとや。
「ももたろうどん，ももたろうどん。今からどけー行くとや。」
「おにがしまへおにたいじに行くとじぇ。」
「おこしのもんはなんちゅーもんじゃ。」
「日本一のきびだんごやろ。」
「一つくれーや。仲間にないろ。」
「一つはだめじぇー。半分あぐいや。」
　ももたろうとさるはやあ，きびだんごを半分ずつ食べて仲間になったとや。

　ももたろうと犬とさるはやあ，いっしょに舟をこいだとや。ゆくがゆくがきじヶ島に着くとキジが言ったとや。
「ももたろうどん，ももたろうどん，今からどけーいくとや。」
「おにがしまにおにたいじにいくとじぇ。」
「おこしのもんはなんちゅーもんじゃ。」
「日本一のきびだんごやろ。」
「一つくれーや仲間にないろ。」
「一つはだめじぇ。半分あぐいや。」
　ももたろうとキジはやあ，きびだんごを半分ずつ食ろうて仲間にになったとや。

　ももたろうと犬さるキジはやあ，いっしょに舟をこいだとや。ぎっこら，ぎっこらぎっこらしょ。ゆくがゆくがとうとうめざしとったおにがしまについたとや。ももたろうはやあ，おにのやかたのもんぜんでやー，だいおんじょうでおらんだとや。「やあやあにくきおにどもよう聞いとけ。日本一のももたろうがおにたいじにやってきたろうー。さあかくごかくご。」
これをきいた鬼どもはやあ，
「何をこしゃくな青びょうたんめ，日本一とはおかしなことを言っといなー。さあやれるもんならやってみろ。」
とえへらえへら笑いながらふんぞり返ったとや。
　すかさずハバシカきじがやあ，きーんと飛び立って門のカギを開けたとや。ももたろうが，
「そうれやっつけろ。」
とほいさかどどどと門の中に飛びこんでやー，青，赤，黒のおにどもをぽいんぽいんとあたりかまわず投げ飛ばせばやあ，犬はかみつく，さるはひっかく，キジは上ん方からつっつきまわったとや。
　おにどもはおったまげてやー，
「あいや，あいや，まいったまいった。」
とちりぢりばらばらにげまわったとや。ももたろうは，
「えい，や！。」
と，とうとうおにの一番えらかとを投げ飛ばしすかさずねじふせてしまったとや。

　おにの一番えらかとはやあ，もはやこれまで，と思ってか手をついてやー，頭ん下げてこうさんしたとや。
「どうか命ばかりはお助けくだされ。むすめっこしお米あわは，おかえしすっから。でっか船と金ぎんさんごもあぐいや。」ももたろうと，犬，さる，キジはやあ，
「えい！おう！わん！きゃっ！きーん！」
と天までとどく勝どきをあげたとや。

　でっかか船はやあ，ほをあげて走ったとや。
「塩，米，あわはとりかえしたろー。えんやこうらえんやっさ。むぞかむすめなんどー，とりかえしたろー。えんやこうらえんやっさ。金ぎんさんごもざっくざく。えんやこうらえんやっさ。」
ももたろうと犬，さる，キジはやあ，むすめっこなんどの手びょうしでやー，歌ーて，おどって無事をいわったとや。えんやこうらえんやっさ。えんやこうらえんやっさ。
　ももたろうはやあ，村ん帰ってくいと一番気に入ったむすめをばや，よめんもらってやほくほく喜んだてや。ももたろうふうふはやあ，じいやばあとなかゆくくらしたとや。めでたし，めでたし。はい，こいまでやろー。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　終